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第四部 昭和前期編 ~多事多端~ 昭和初年~昭和20年
53.メニューカード
昭和13年の記録を続けます。京都府庁文書の中から、「京都ホテル」で開かれた会合を探してみますと、宴会が前後9回ありました。中央から、大臣その他を迎えての午餐会や、外国の使節の歓迎会などです。
その時のメニューカードの中には、なかなか趣向をこらしたものもありますので、カードのいくつかをご披露しましょう。
まず1月に末次信正内務大臣を囲んで、京都・滋賀・奈良の3知事、京都市長、助役、京都商工会議所会頭、副会頭などが参加しました。東京からは神社局長も随行していますが、メニューカードには伊勢神宮を思わせる図をあしらうなど、しゃれたものでした。ホテルの請求書では、料理は1人あたり5円となっています。
献立
食前小菜
玉ねぎ入り鍋だきスープ
比目魚の紙包焼
鶏肉と伊勢海老のトマト煮 野菜
梨のカルデイナル
果実 小菓 珈琲
次は4月の木戸幸一厚生大臣歓迎午餐会です。カードはごく普通のものでした。これも5円です。
献立
食前小菜
澄スープ
車海老のチーズ焼
鶏肉トルネード
季節野菜の取り合わせ
水蜜桃のカルデイナル
果実 小菓 珈琲
7月には末次内大臣が水害視察のため入洛しました。食事代は3円とあります。
献立
食前小菜
クリームスープ
小海老の小串焼
鶏肉の煮込 野菜添
バニラアイスクリーム
果実 珈琲
外国の方をお迎えしてのカードには国旗を入れたり、表紙に版画を使ったりしたものがあります。1つは10月のペルー使節団歓迎で、もう1点はイタリアの経済使節団の歓迎会です。
5月の華北婦女訪日団歓迎会のメニューは日本語でした。
献立
食前小菜
澄スープ
比目魚煮込
鶏肉洋酒煮
平豆・人参
マカロニ・コロッケ
鶏肉蒸焼 ポテト添
生菜季節 胡瓜・レタス・ウド
バニラアイスクリーム
珈琲
宴会は、ホテルにとって、晴れの舞台でもありました。料理は主としてフランス料理ですからシェフと言われる人達は、「帝国ホテル」などで腕をみがいたあと、フランスに修業に出かけたものです。
それだけにシェフには威厳があって、調理室の規律は大変厳しいものでした。朝の点呼では、毎日、服装から手指の先まで検査をします。
もちろん、健康かどうか、清潔かどうか、調理人の気がまえを読みとるためです。調理室の出入りも、なかなかやかましく、特に女性が勝手に入ろうものなら、頭からどやしつけられた、といいます。どうやら、女人禁制のしきたりがあったようです。
宴会の日取りが決まりますと、シェフがメニューを考え、メニュー伝票が、宴会係に回ってきます。「京都ホテル」の当時のメニュー伝票を見ますと、全てフランス語で書かれています。
これで、当日用意する皿やタンブラー、ナイフ、フォークなど、食器の種類と数とが決まります。料理の中には、特別な食器を使うものもあるでしょうが、伝票には、料理の名前しか書いてありませんので、宴会係のキャップは、フランス料理の名前から、内容、熱いか冷いか、テーブルへの出し方、どんな食べ方をするのかなど、何から何まで知り尽くしていて、しかもフランス語が読めないと、務まらなかったのでした。
当時の物価は金1グラムが3円50銭、石けんが15銭、一汁一菜定食が50銭。
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